「ある日、青い空に向かって」

2005年のギャラリー ル・ベインの展覧会、森豪男 三橋いく代 展「ある日、青い空に向かって」
は、ぼくの転機となりました。
森氏の出品作品の全てを製作した事がきっかけとなり、すばらしい方々に出会う事が出来ました。
その出会いが、ぼくに一生懸命技術を磨き、一流の職人と会社にならなくてはいけないと決心させ、
そして出会った方々がぼくを成長させてくれました。
その日から8年が経ちましたが、ぼくの挑戦はまだまだ続いています。
次の文章は、お二人の展覧会の案内状に載っていたものです。時折読み返しています。(坂本)


身近な風景が表現のもとになる。
セザンヌのサント=ヴィクトワール山のように。
旅に出ることもそうだ、芭蕉のように。

今回のぼくの家具の作品の一つは樹木のシルエット。
それはかつてソーホーに住んだとき、ロフトの大きな窓から毎日見ていた一本の木。
やや遠くに仰ぎ見るその木は、六階建ての古いビルの屋上中央に葉を繁らせて空にうかんでいた。

よくマンハッタンを三橋さんと歩いた。
彼女は近所のコーネリアストリートに住んでいた。
デザインを語りながら通りを行くとき、この街特有の深いV字形に切り取られたパースペクティブな空がいつも前方にあった。その空に向かって二人は歩いた。

今回発表される三橋さんの作品のモデルを見たとき、直感的にぼくはあの透明な空に存在した風や霧、雨や雪のクリスタルの輝きを思い出した。 それらは天の光のみならず地上の明かりをも反射するのだった。

もし、三橋さんの表現も、深い意識に潜んでいたマンハッタンの風景にあるとするなら、
「デザインはもっと人の心について語れる」と二人で言いながら、16年後に実現した三橋、森展は、
マンハッタンへのオマージュと言える。
それは、ホームレスの塊が異臭と共に地下鉄構内を埋め、殺人が日常であり、
世界中のすべての問題をたった一人で抱えてしまったように薄黒く汚れて、
しかしそれ故にこそ人間精神の深奥を見せてくれたマンハッタン、
デザインが持つことの出来る精神性についてぎりぎりと問いつめてきたニューヨークへのオマージュである。
                                                 森豪男


マンハッタンの樹 A Tree from Manhattan / 2005 Hideo Mori


ある日青い空に向かって Over the Blue Horizon / 2005 Hideo Mori        撮影:日高一哉